吃音の訓練では、吃音に関する正しい知識を得たうえで、どのような状態を”治る”と考えるかが重要です。
こちらのページでは、吃音の症状と悪化・改善方法についてご紹介します。
「みみみみみかん」と同じ音やことばを繰り返す(繰り返し)、
「み~~かん」と音を引き延ばす(引き延ばし)、
「mっ…っ…mみかん…」とことばが詰まって出てこない(阻止·ブロック)、
この3つが吃音の基本症状(中核症状)です。
これに加え、症状が出ないように本人の意思で行う二次的症状があります。
スラスラ話すためにテクニックを駆使する行動(工夫)です。
特に重度の症状では、
話すことを避ける(回避)が起こります。
いろいろ工夫してことばに詰まらないように話す行為は、一見良いことのように思えますが、
実は「工夫」という吃音の症状です。
もう一つ、
吃音の大きな特徴として、進展段階があります。
「繰り返し」や「引き延ばし」の症状だけが出現する第1層が最も軽度であり、
「回避(話すことを避ける)」の症状が出現する第4層が最も重い状態です。
したがって、
第4層に向かって進む(進展する)ことを”悪化”、
正常域に向かって遡る(遡及する)ことを”改善”、
と考えます。
世の中には数種の吃音訓練法がありますが、
大まかに3つに分けられると考えます。
① 吃音の症状をコントロールする技術を習得し、話す練習をする(直接法)
② 声に出して話す練習をしない(間接法)
③ 吃音を治さない(受け入れる)
最も広く行われる方法は①の直接法で、もっとも効果を実感し易いのが特徴ですが、効果が長続きしない、実際の場面では効果を得にくい等の欠点もあります。
②の間接法は、スラスラ話す練習をするのではなく、実際の場面における困難をどのように解決するかを重要視します。直接法のように効果はすぐに得られませんが、”筋トレ”や”教育”と同じようにコツコツ継続することで、吃音の苦悩から解放されていくのが特徴です。
③はそもそも「治らない」という考えが前提にあり、障害需要のための支援が多いと思われます。
いずれの手段も、最終的な目標は進展段階を遡って正常域に到達することであると考えます。
吃音リハビリサポートでは、「吃音をコントロールする」のではなく、「吃音の苦悩から解放される」ことが当事者の満足度が高いと考えるため、②の間接法を第一選択としています。
吃音訓練は、
RASS(Retrospective Approach to Spontaneous Speech)「自然で無意識な発話への遡及的アプローチ」と呼ばれる方法を実施します。
吃音を悪化させる要因が増えると、進展段階が進んで吃音の症状は悪化します。
逆に、
吃音を悪化させる要因が減少すると進展段階が遡及し、吃音は改善に向かいます。
したがって、
吃音を改善するには、日常生活で悪化要因が増えることを予防し、吃音者意識から離れる行動をとります。
同時に、健常者と同じ”自然で無意識な発話”の経験を積み重ねていき、吃音の改善要因を増やしています。
このために用いる方法が、
成人では年表方式のメンタルリハーサル法であり、
小児の場合は環境調整法となります。
スラスラ話すための声を出した発話練習や呼吸練習(直接法)等は行いません。
自宅で練習することも止めてもらいます。
吃音の症状をコントロールすることが目的ではなく、
吃音者意識を脱し、自然で無意識に話すことが目的だからです。
進展段階が第2層以上に遡及すると、
吃音の悩みが徐々に薄れていき、
吃っても何とも思わなくなります。
正常域まで遡及すると、
完全に症状が無くなります。
●リラックスした状態で、自然で無意識な発話行動をとる場面(対立内容)を、頭の中でイメージ(メンタルリハーサル)します。
●メンタルリハーサルの中では、発話への注目・工夫・回避は一切禁止です。
●恐れの生じにくい幼少期の場面から対応します。
●対立内容は言語聴覚士が作成し、当事者本人に毎晩就寝前に行ってもらいます。
●普段の日常生活では、吃音者意識から離れる行動をとるようにします。
進展段階4層の吃音の方が、約3年訓練を行った結果、
36%の方が、正常域に到達(完全に治癒)
38%の方が、進展段階1・2層に到達(症状は出ているが、本人は困らなくなった)
26%の方が、進展段階3層に留まる(まだ吃音で困る場面がある)
という結果になったと報告されています。
したがって、改善率は74%となります。
※都筑澄夫編著「間接法による吃音訓練 自然で無意識な発話への遡及的アプローチ-環境庁製法・年表方式のメンタルリハーサル法-」三輪書店 2015/8/30発行 より
吃音症状を克服するためのテクニックではないため、即効性はありません。
訓練期間は、約3年を目安としています。
●小児の場合は、吃音の自然治癒の可能性を最大限に調整した環境下で、のびのびと過ごしてもらいます。自然で無意識な発話経験を積み易い環境を整え、吃音が治るのを待ちます。
●こどもに関わる言語環境と養育環境の両方を調整します。話し方への指摘や発話の強要は逆効果です。
●過度な躾も控えます。一般常識を身に付けるための躾よりも、自分の感情や意思を表出できる能力を養うことを優先します。
●環境調整により、こどもと大人の両方に影響が生じます。こどもにはこれまでに見られなかったように発言や態度がみられるようになり、大人はそんなこどもの変化に戸惑いやストレスを感じ易くなります。
●言語聴覚士は、こどもの変化を注視しつつ、実際に環境調整を行っている大人のサポートを行います。
①予め聴取した質問紙の内容をもとに、言語聴覚士が対応方法について検討します。
②成人の場合は、言語聴覚士が作成した内容でメンタルリハーサルを行ってもらいつつ、普段の生活で吃音者特有の考えから離れるように行動します。小児の場合は、周囲の大人たちが調整した環境下で、自由に過ごしてもらいます。
③次回セッションで、吃音の状態を確認し、今後の方針を検討します。
※①~③を約1か月間隔で繰り返します。
サービスを利用されている吃音当事者の方と言語聴覚士の対談の様子です。
以下のことを解説しています。
「直接法と間接法が目指す目標の違いについて」
「話す練習で吃音は治るのか?」
「吃音の問題とコミュニケーションの問題は別物なのか?」
「なぜ吃音訓練が必要なのか」
「吃音が治る人の特徴について」